HARG療法の原理を理解する

HARG療法とはどんな療法なのでしょう?移植でない再生医療ということに興味を持ちました。開発者の福岡大太郎先生の書かれた論文は、英語ならネットで読めます。

The Latest Advance in Hair Regeneration Therapy Using Proteins Secreted by Adipose-Derived Stem Cellsという論文を読んでみました。

頭皮

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脂肪由来幹細胞が一番の大もと

この療法は、低酸素下で培養・増殖させた脂肪由来幹細胞培養液(ADSC-CM)がもとになっていますが、その大もとは、もちろん、論文の表題にもある脂肪由来幹細胞にあります。

従来、美容外科では、脂肪吸引などによって除去された脂肪組織は廃棄されていました。しかし、最近、成体幹細胞が脂肪組織から単離され、次いで毛髪および皮膚組織を再生させることが分かりました。

成体幹細胞とは

成体幹細胞とは、ウイキペディアにこのように書かれていました。

成体幹細胞(英: Adult stem cell)は、生物の体内に見られる最終分化していない細胞である。細胞分裂によって増殖することにより、最終分化細胞への前駆細胞の供給源として、死んだ細胞を補充し損傷した組織を再生される機能をもつものである。

通常、成体幹細胞は特定の複数種の細胞にしか分化することができない(多分化性)。

近年、多能性を持つ細胞の存在が主張されている。このような細胞が存在すれば、潜在的には少数の細胞から臓器全体を再生させる能力を持つことから注目されている。また、これらの細胞は胚性幹細胞と違って成人の組織サンプルから得ることができ、(略)

成体幹細胞は、体のどの部分の細胞になるのか決まっていない未分化の細胞です。しかし、体のどこの部分にでもなれるわけではなく、いくつかの場所の細胞にしかなれません。

さらにこの細胞は、受精したばかりの細胞を使用する必要はなく、成人の組織から得ることができます。

不用になった脂肪組織を使う

その一つ、脂肪組織から得られる幹細胞は、脂肪由来幹細胞(Adipose-derived stem cells:ADSCs)と呼ばれます。

脂肪組織は、たとえばお腹をつまんだ部分にあります。この部分に脂肪(=油脂)がそのまま存在するのではありません。脂肪は、体の中で脂肪細胞と呼ばれる細胞に貯蔵されます。脂肪細胞と名前がついていると特別な細胞のように感じますが、脂肪をたらふくため込んでいるだけで、それ以外は他の細胞と変わりません。

そこから幹細胞が分離されるということです。

中胚葉由来の組織でも外胚葉由来の毛髪に分化できる

脂肪組織は、中胚葉(間葉)由来の組織です。高校で生物を選択した方は、発生を思い出してください。受精卵は、卵割を始め、やがて外胚葉、中胚葉、内胚葉と呼ばれる胚葉ができました。

卵割

三胚葉は、その後、体のどの部分に分化するか決まっています。

  • 外胚葉:皮膚の表皮や男性の尿道末端部の上皮、毛髪・爪・皮膚腺(含む乳腺・汗腺)、感覚器(口腔・咽頭・鼻・直腸の末端部の上皮を含む、唾液腺)水晶体などを形成する。外胚葉の一部神経管を形成する。
  • 中胚葉:体腔およびそれを裏打ちする中皮、筋肉、骨格、皮膚真皮、結合組織、心臓・血管(血管内皮も含む)、血液(血液細胞も含む)、リンパ管や脾臓、腎臓および尿管、性腺(精巣、子宮、性腺上皮)となる。
  • 内胚葉:食道から大腸までの消化管(口腔・咽頭や直腸の末端部を除く)となる。また内胚葉は消化管のほか肺、甲状腺、膵臓、肝臓などの器官の組織、消化管に開口する分泌腺の細胞、腹膜、胸膜、喉頭、耳管や気管・気管支、尿路(膀胱、尿道の大部分、尿管の一部)などを形成する。出典

太字にしておきましたが、毛髪は外胚葉です。一方、脂肪組織は中胚葉になるので、そこから分離された脂肪由来幹細胞成(ADSC)は、中胚葉の組織に分化されると思われていたのですが、皮膚や毛髪にも分化することが分かりました。

脂肪由来幹細胞は直接使えない

それなら、脂肪由来幹細胞(ADSC)を培養して、たとえば移植して使えばよいのかなと思いますが、自分の細胞でなければ免疫反応が起きます。また、未分化の細胞は癌化する可能性があります。使えません。

ところが、低酸素下で培養・増殖させた脂肪由来幹細胞培養液(ADSC-CM)に入っているタンパク質に有効な作用があるのです。

タンパク質を注射する

ADSCは、たとえば、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、ケラチノサイト成長因子(KGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF-β1)、インスリン様成長因子結合タンパク質(IGF-BP)前駆体、フィブロネクチン、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)などのような多くの成長因子の分泌によってその周囲環境にパラクリン効果を与えます。

パラクリン効果とは、特定の細胞から分泌される物質が、血液中を通らず組織液などを介してその細胞の周辺で局所的な作用を発揮することをいいます。もう少し分かりやすく書くと、これらの物質は、命令・指示を出す物質なのです。

増殖・成長因子とは主に細胞を増殖させる働きを持ち、創傷治癒中のコラーゲン合成および線維芽細胞移動の刺激など、多様な皮膚再生効果を発揮します。

脂肪由来幹細胞(ADSC)を培養して移植する代わりに、これらのタンパク質を頭皮に注射(注入)すれば、休止期の毛根を刺激して、毛母細胞が再生し、その後毛包となって毛が生えてきます。 こうして育毛できるという方法なのです。

AAPEの組成

市販の脂肪由来幹細胞タンパク質抽出物として、AAPEが紹介されていました。

Prostemics Co Ltd(韓国、ソウル)の韓国の研究チームにより、市販の脂肪由来幹細胞タンパク質抽出物(AAPE)が開発された。この抽出物は、多数の増殖因子および再生促進タンパク質を含む。

PDGF(44.41±2.56pg / mL)、bFGF(131.35±30.31pg / mL)、KGF(86.28±20.33pg / mL)、TGF-β1(103.33±1.70pg / mL)、HGF(670.94± 86.92pg / mL)、VEGF(809.53±95.98pg / mL)、コラーゲン(921.47±49.65pg / mL)、フィブロネクチン(1466.48±460.21pg / mL)、および5mLの生理食塩水中のSOD。

文中、pg(ピコグラム)とは、10-12gのことです。1兆分の1グラムです。
フィブロネクチンは、細胞の接着、成長、移動、分化を促進する働きがあります。
SODは活性酸素を消去する酵素です。

AAPEにプラスしてHARG療法となる

さらに、毛髪再生療法(HARG)として、AAPEにこんな成分も加えられていました。

本研究では、AAPEにビタミンB5(5mg)、ビタミンB6(2.5-5.0mg)、ビタミンH(1mg)、ビタミンC(80-100mg)、ビタミンE(5mg)、および補酵素Q10(10U)を組み合わせた注射の能力を実験した。さらに、酸化防止効果をもつ脂肪溶解注射の機能を改善し、発毛を誘導するために、アミノ酸を加えた脂肪溶解注射も一緒に行った。

われわれは、低酸素脂肪由来幹細胞培養液(ADSC-CM)によって強化された、この組み合わせられた療法を、毛髪再生療法(HARG)と呼んでいる。

まとめ

再生医療はこれから期待の療法です。今までは移植しか考えられていませんでしたが、きっとこの分野は進んでいくだろうなと思います。

他人の脂肪細胞を低酸素下で培養して、そこで得られる信号物質が自分の細胞に命令を出すというのが面白いなと思いました。ホルモンは血液に乗って広範囲に作用しますが、ホルモンではなく、組織液などを介してその細胞の周辺で局所的な作用を発揮するというのが安全な方法なのかなと思いました。

また、女性の脱毛症には、ミノキシジル以外、あまり効果的な方法がないようなのですが、このような療法なら効果が上がるかもしれないなと思いました。できるだけ詳しく調べてみます。

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